米SpaceXが「スターシップ V3」を初打ち上げ──輸送能力は従来比“約4倍”に迫る
2026年5月22日(米東部夏時間18時30分)、スペースXはテキサス州ボカチカの新設Pad 2から、次世代大型ロケット「スターシップ V3」(統合飛行試験=IFT-12)を打ち上げました。これは2025年10月のFlight 11以来となるスターシップの試験飛行であり、V3機としては初めての実機テストです。
初飛行は上段「Ship 39」が予定どおり宇宙空間へ到達し、複数のダミーStarlink衛星を放出してインド洋へ制御落下。下段ブースター「Booster 19」は予定のブーストバック燃焼が完遂できずメキシコ湾に着水・破壊されましたが、飛行データの取得という主目的は達成されました。
打ち上げ結果のポイント
- 飛行時間:約66分(離昇から上段 splashdown まで)。
- ペイロード試験:22機のダミー衛星を「ペズディスペンサー式」ドアから放出。
- 課題:ブースターのエンジン1基が離昇直後に停止し、帰還燃焼が不完全。
スターシップ V3──何が変わった?
V3は「Block 3」とも呼ばれる第3世代スターシップ。外観は従来機とほぼ同じ9 m径ですが、内部構造・推進系を全面刷新しました。
- 推進系:新開発Raptor 3エンジン(33基)が離昇推力を約10,000 tfへ引き上げ(Raptor 2比+21%)。
- プロペラント容量:ブースター4,050 t/Ship 1,600 tへ増量。
- ペイロード能力:再使用前提で100 t超をLEOへ投入でき、V2(約35 t)比で約3倍。 expendable想定上限では4倍近い数字に達します。
- 機体サイズ:全高408 ft(約124 m)と小幅延長。
- その他:大型化した3枚グリッドフィン、船間ドッキングポート、改良TPSタイルなど。
「輸送能力約4倍」の背景をやさしく解説
スターシップは完全再使用を前提に設計されています。ブースターを塔の“チョップスティック”でキャッチし、上段Shipを水平着陸させることで、機体コストを短期間で回収しつつ高い打ち上げ頻度を実現する狙いです。
従来のV2(Block 2)が再使用モードで約35 tしか運べなかったのに対し、V3は構造軽量化と推力向上で100 tに到達。打ち上げを expendable(使い捨て)モードに切り替えると200 t規模まで拡張できるとされ、数字上はV2の“約3〜4倍”に達します。これが「輸送能力4倍」という表現の根拠です。
なぜこの進化が重要なの?
スペースXのビジネスと米国宇宙政策の両面で、V3の大幅な能力向上は鍵を握っています。
- Starlink V2本格展開:フルサイズ衛星はFalcon 9に入らず、100 t級ペイロードと大型ペイロードベイが必須。
- NASA「アルテミスIV」以降の月面着陸:HLS(有人着陸システム)としてスターシップを採用しており、軌道上補給と高輸送量が前提。
- 民間・学術大型衛星:直径8 m級のフェアリングは宇宙望遠鏡や宇宙ステーションモジュールを一体輸送でき、ミッション設計の自由度が広がります。
今回のフライトで得られた教訓と今後
初飛行では機体・推進系の同時検証が行われ、課題も可視化されました。
- ブースター帰還シーケンスの最適化(エンジン再点火・姿勢制御)
- Ship側Raptorエンジンの冗長性確保
- 新設Pad 2の耐久性とターンアラウンド時間の評価
スペースXはブースターキャッチを次回以降に計画しており、2026年内に複数回のV3飛行を実施して月面ミッション用の推進剤転送試験へ進む方針です。
スターシップ V3の成否は、スペースXのIPOやStarlink拡大計画にも直結するだけに、打ち上げ頻度と機体改修サイクルの速さがこれまで以上に注目されます。
まとめ
今回の試験飛行は「世界最大ロケットV3」への第一歩でした。完全成功とは言えないまでも、100 t級貨物を運ぶ再使用ロケットという実現すれば桁違いの輸送手段が、いよいよ現実味を帯びてきたと言えます。アイデア段階ではなく、実機が空へ飛んだ──この事実こそが、今後の宇宙産業のゲームチェンジャーになるかもしれません。
